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    それは背広姿に、遠目にもはつきりと判る緑色のソフトをかぶつた男であつた。

    「ねえ!」

    と、房一はひとり言を云つた。

    間もなく二人は来た時と同じに、つれ立つて、いくらか日蔭のできた路を、どういふものかどちらも自転車に乗らうとはしないで、押しながら歩いていた。

    「ありがたう。――あ、大きいね」

    「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」

    と、微笑しながら頭を下げた。

    最後に行つた家は河上の小一里るある辺で、そこいらは人家は数へるほどしかなく、河つ縁ぷちに沿つた段々畑の中を幅の広い国道だけがほの白く浮いて、次第下りに河原町の方へつゞいていた。軽くペタルを踏むだけで、彼の乗つた自転車は半ばひとりでに快い同じ速度で走つた。

    「そうしてそのお松と言う女は?」

    「たゞし、預かるだけだよ。この分が残つている間はいくら後から来ても貰はんよ。いゝかね」

    徳次は笊を差出した。

    それは言葉にするとこんな風なものであつた。

    と、下の男は睨み上げた。

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