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房一は目を上げて注意深く道平を見た。
「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」
「さうだ」
「おとうちやん、どこへ行くの」
「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」
「――?」
と、徳次は叮寧にならうとして一種奇妙な言葉づかひになりながら、
「ほう、ほんに!みんなある」
五
犬が何を見つけたのか、その時さつと身を躍らして傍の草地にとびこんだ。二三度そこらをぐるぐると廻ると、鼻の先に真新しい土をくつつけてまた房一の傍にもどつて来た。
「あのう、笹井へ往診がございますが」
しかし家族たちはヌルすぎるといって、入浴しなかった。そこで温泉加熱の装置を施したが、薪をたき、釜の中をグルグルまいたパイプに水道を通し、湯となって湯槽へ流れこむ仕掛けで、入浴している方は温泉気分であるが、外では薪をたいているのだ。温泉場で釜の火をたくとは味気ない話だ。
温泉宿へ一旦いったん踏み込んだ以上、客もすぐには帰らない。宿屋の方でも直すぐには帰らないものと認めているから、双方ともに落着いた心持で、そこにおのずから暢のびやかな気分が作られていた。
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