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    房一は目を上げて注意深く道平を見た。

    「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」

    「さうだ」

    「おとうちやん、どこへ行くの」

    「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」

    「――?」

    と、徳次は叮寧にならうとして一種奇妙な言葉づかひになりながら、

    「ほう、ほんに!みんなある」

    犬が何を見つけたのか、その時さつと身を躍らして傍の草地にとびこんだ。二三度そこらをぐるぐると廻ると、鼻の先に真新しい土をくつつけてまた房一の傍にもどつて来た。

    「あのう、笹井へ往診がございますが」

    しかし家族たちはヌルすぎるといって、入浴しなかった。そこで温泉加熱の装置を施したが、薪をたき、釜の中をグルグルまいたパイプに水道を通し、湯となって湯槽へ流れこむ仕掛けで、入浴している方は温泉気分であるが、外では薪をたいているのだ。温泉場で釜の火をたくとは味気ない話だ。

    温泉宿へ一旦いったん踏み込んだ以上、客もすぐには帰らない。宿屋の方でも直すぐには帰らないものと認めているから、双方ともに落着いた心持で、そこにおのずから暢のびやかな気分が作られていた。

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