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    朝早くから徳次が探し歩いてくれたので、房一には追鮎の素晴しいのが手に入つた。浅瀬につけた追鮎箱の中で、肥つた生きのいゝそいつは青黒い美しい背をたえまなく左右に動かしながら、きれいな水に洗はれて、たとへやうもなく靱しなやかに強く見えた。鼻先に短い針を通して糸につけて放すと、そいつはいきなり激しい力をもつて水の深みに走つて行つた。

    「さうですよ、あんた。銅の値が上つたさうですね、昨日も九州の方から礦山師が赤山を見に来たんです。あの山ぢあね、随分家屋敷をなくした者があるんですがね」

    「鬼倉といふのは女を二人置いとるさうぢやないか」

    「や、失礼、おさきに」

    小谷は仰山ぎやうさんな表情になつた。

    徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。

    「それあ、しかし、何だな、知吉さんも今まで不服だつたのをこらへていたんだな、何分かの理窟はあるわけだね」

    「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」

    「さうか、――そんなに何もかも、こつちでして貰つてもえゝか」

    「別に惜しいほどのことではありませんよ」つづけて、ふいに調子を変へると、

    「何にしても、えらいこつてしたなあ」

    大石練吉は日盛りの往診からもどつて来ると、暑さのために不機嫌さうな顔になりながら、自転車を手荒らに立てかけ、とりつけた鞄もそのまゝにして、のつそりと診察所から上つた。

    「さあ、知らん」

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