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    「いや、どうぞ構はんで下さい」

    「さやうで御座りますか。お忙しいところを御苦労さまで」

    房一が入つて来るのを見たとき、練吉の顔には意外だといふ表情が浮かんだ。彼は房一の眼を迎へようとして一層高く頭を持上げたが、房一は気づかなかつたので、やがて、練吉はわざわざ座を立つて近づいて来た。

    徳次は気が抜けたやうに、口のあたりをもごもごさせるきりだつた。

    「さうです。農林学校の先生だとかをしていられると聞きましたが」

    河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。

    「やつは、わつしの土方家業がえらい嫌ひでしてな」と、彼は云つた。

    「や、先日はどうも――」

    結婚してもう三四年になるが、いまだに出たり入つたりを繰り返している茂子は、練吉にとつては三度目の妻だつた。最初のは男の子を一人のこして去つた。二度目は半年もたゝないうちに大石の方から帰した。今度の茂子の場合だつて、当人も居辛からうが、大石の側でも面白くはない、どうでもいゝと云つた調子であつた。そして、ふしぎなことにはかういふ態度は大石の正文老夫婦から出ているので、練吉の方は吾不関焉われくわんせずえんといつた風があることだつた。

    「あの山に田地を注ぎこんで裸になつたのは三人、わしも知つとる」

    「さつき、河原で、先生に会つたんでさあ。――往診に出かけなさる途中でね」

    ちょうどその時我々は郵便局の前に出ていました。小さい日本建にほんだての郵便局の前には若楓わかかえでが枝を伸のばしています。その枝に半ば遮さえぎられた、埃ほこりだらけの硝子ガラス窓の中にはずんぐりした小倉服こくらふくの青年が一人、事務を執とっているのが見えました。

    「やあ、おいでなさい。わたし、相沢です」

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