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と云つた。
好い座敷には床の間、ちがい棚は設けてあるが、チャブ台もなければ、机もない。茶箪笥や茶道具なども備えつけていないのが多い。近来はどこの温泉旅館にも机、硯すずり、書翰箋しょかんせん、封筒、電報用紙のたぐいは備えつけてあるが、そんなものは一切ない。
神原喜作は、殊に自分が最初に口火を切つた責任者だといふ自覚があるらしく、あのづぶ濡れになつた下半身がいつのまにか生乾きになり、寒さのために硬はゞつた裾をばくばくさせ、方々を歩きまはつて説いた。練吉はその間、一種異様な緊張さを現していた。彼は、ごくたまに目瞬きをしていたが、顔はかつて見せたこともないやうな生真面目さで蔽はれ、時々さつと青ざめ、焚火の前に来ると俄かに紅らみ、絶えず房一の傍から離れなかつた。
「つい今日まで挨拶にも行かずじまひになつてね、どうも済まなかつた」
と後を追ふと、徳次は
と、房一の近くで云ふ声が聞えた。今泉らしかつた。つづいて同じ声が
「どうでした」
と云つた。
「神尾司令官閣下と同列なんだよ。宇品から東京駅着。それから直ちに参内上奏されたんだよ。どうも、すばらしいね。目に見えるやうだね」
不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。
「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」
男は語尾に力を入れて、房一の眼の中をのぞきこんだ。
稍意地の悪い、きびしい調子であつた。
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