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    「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」

    「今日は士曜日で、半休だからね」

    「はア」

    「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」

    家賃はいくらでもいいと云うから、こッちで勝手にきめて持たせてやったら、多すぎる、と云って受けとったそうだが、東京の相場の四分の一ぐらいの家賃かも知れない。伊東は家賃がやすい。

    「うん、あの程度だと別に影響はないんだらう」

    「どうも、やつぱりねえ。調子が悪い」

    突然だつたので、房一は思はずその醜い顔に紅味をうかべながら、軽く頭を下げた。その拍子にごく自然に眼玉と真向ひになる位置を外した房一は、さつきから気を引かれていた馬の方をちよいちよい眺めやつた。

    「なんですよ、あんまり貴方あなたの評判がいゝもんですから、さういふ方ならぜひ一度自宅うちでも診ていたゞきたいと思ひましてね」

    さう云ひながらぽんと軽く下腹をたゝいた盛子の巧みな、しなのある手つきが目に浮かんだ。それは、そこだけ切つてとつたやうな鮮かさで残つていた。

    正文は顎をつき出しては一寸笑つて、ふむ、ふむ、とひとりでうなづいていた。

    「梨地から水神淵へ降りる路ができたからね、そこへ出れば、帰りはずつと楽だ」

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