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    「お粗末ではござりまするが、どうぞごゆるりと」

    「これですか――?」

    「ほらね、かういふ形のと、又別にかういふのがあるだらう」

    「さうです、さうです。さつきも少し遠乗りをやりましてね。帰つて来たばかりなんです。どうしてもこの辺は馬ででもないと、用達しが不便でしてね。町へもこれで出かけます」

    「あんたも、おめでたいさうで」

    「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」

    小谷はしばらく放つていた糸を手許にひきよせて、水の中の鮎を眺めながら云つた。

    と、房一は小谷に向つて訊いた。

    「やあ」

    「先づそのうちには、町内の様子もいろいろお解りになることでせう。これでなかなか面倒なこともありましてな」

    「今日はえらい早いお帰りだね」

    房一は苦笑した。とにかく珍客にはちがひなかつた。そして、たつた今さつきまで房一は彼等のお見舞ひでわれ知らず興奮し、緊張し、それからあの半シャツの男と言葉の上でなく、眼と眼で、構へと構へでやりとりした、それが突風の去つた後のやうな軽いあつけなさを残していた。

    房一は椅子から立ち上つた。

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